Cogito


夕ぐれの時はよい時
かぎりなくやさしいひと時。

それは季節にかかはらぬ、
冬なれば煖炉のかたはら、
夏なれば大樹の木かげ、・・・・・・

2017-06-25

中原中也「ほととぎす」




戀しくば 訪ね來てみよ ほととぎす


           (一九三五・五・二四)


中原中也 1935 俳句



出典:中原中也全詩集 P.951 1972 角川書店


2017-06-24

ポール・フォール「別 離」



別 離

せめてなごりのくちづけをはまへ出てみておくりませう。

いや、いや、濱風、むかひ風、くちづけなんぞは吹きはらふ。

せめてわかれのしるしにと、この 手 拭 ハンケチをふりませう。

いや、いや、濱風、むかひ風、 手 拭 ハンケチなんぞは飛んでしまふ。

せめて 船 出 ふなでのその日には、涙ながして、おくりませう。

いや、いや濱風、むかひ風、涙なんぞはてしまふ。

えい、そんなら、いつも、いつまでも、思ひつづけて忘れまい。

おゝ、それでこそお前だ、それでこそお前だ。


      ポオル・フォオル


Paul Fort 1900 “L’Adieu” dans “L’Amour marin”
上田敏 訳 1911「芸文」



出典:上田敏全訳詩集 1962 岩波書店

改訂:6/24 末梢字配り訂正


2017-06-22

M.ペライア ピアノ・ソナタ “月光” 第3楽章


今日は一日中、何か気分が落ち着かない…
そして、いつもと違った音楽、なにか、激しい音楽を聴きたくなった。

思いつくのは、ベートーヴェン… ギドン・クレメル… ロストロポーヴィッチ…
交響曲 7番、9番、5番…? ピアノ・ソナタ ”熱情”…?
いや、激しさ、きっと足りない。

選んだのはこれ、

  ピアノ・ソナタ 第14番 月光 より 第3楽章
  演奏は、マレー・ペライア

ペライアの演奏、どんなに早く、激しくキーを叩いても、主題やモチーフが、音の洪水の中に埋もれない、一連の音のダンゴにならない。
明確で、なお激しい。大好きなのです。

このクリップは、テレビの実況録画のようで、音質が良くありません。ピアノの音にクリアーさがなく、ノイズもかぶります。
それでも、この演奏に代わるものなし。

心の底からあらゆる苦悩を吐き出して、鍵盤を叩いているかのように、激しい。

弾き終わって立ち上がり、拍手に軽くうなづくが、心ここにあらず、呆然とした面持ちなのが印象的です。


    Bravo !!!!!!!!!!!


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ピアノ・ソナタ No.14 “月光”より 第3楽章
作曲: Ludwig van Beethoven
Pf: Murray Perahia
 


改訂:6/23 ビデオクリップを、同じ演奏でノイズのないものに差し替え
   6/23 末梢記述訂正
   6/23 誤記訂正 → ロストロポーヴィチ


2017-06-21

中原中也「倦 怠」


倦 怠


倦怠の谷間に落つる
この眞ッ白い光は、
私の心を悲しませ、
私の心を苦しくする。

眞ッ白い光は、澤山の
倦怠の呟きを掻消してしまひ、
倦怠は、やがて憎怨となる
かの無言なるいたましき憎怨………

忽ちにそれは心を石と化し
人はただ寝轉ぶより仕方もないのだ
同時に、果されずに過ぎる義務の數々を
悔いながらにかぞえなければならないのだ。

はては世の中が偶然ばかりとみえてきて、
人はただ、絶えず慄へる、木の葉のやうに
午睡から覺めたばかりのやうに
呆然たる意識の裡に、まなこ光らせ死んでゆくのだ


中原中也 1938 未刊詩篇



出典:中原中也全詩集 P.456 1972 角川書店

注)憎怨 = 怨憎(?) えんぞう/おんぞう 恨むこと 憎むこと


2017-06-19

山田一雄指揮 日本合唱協会「夏の思い出」


尾瀬には、行きたい、いきたい… と言っていたが、とうとう一度も行けなかった……。

尾瀬は人気がありすぎて、シーズン中は訪れる人も多く、木道を列をなして歩くハイカーの姿を思い浮かべて、つい敬遠してしまいました。
オフシーズンに、と思ったたこともありましたが、アプローチの距離が長いこともあって二の足を踏んでしまいました。

代わりに、というわけではないのですが、尾瀬から遠くない湿原、鬼怒沼には3,4回訪れました。
鬼怒沼は、標高2000m超にある、一目で見渡せる小さな湿原。
尾瀬より1000m以上高く、植生が違っていて派手な花などはなく、静かで落ち着いた、天上の楽園。

鬼怒川を遡った一番奥、標高1400mにある山小屋風の日光沢温泉に連泊して、渓谷を散策したり、標高差約600mの鬼怒沼まで往復したり。
いつも、シーズンのピークを避けて訪れたので、多くても数人の訪問者と行き違う程度の登山(標高差600mを登るのはいっぱしの登山です)で静かな湿原と澄んだ冷たい空気を味わうことができました。

最後に訪れたのが、たしか1999年の夏… 18年前
……… 遠い、とおい昔の、夏の思い出です。


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貼り込んだクリップは、日本のクラシック音楽草分けの指揮者 山田一雄さん(愛称ヤマカズさん)指揮 による、日本合唱協会「夏の思い出」。
大変凝った編曲ですが、誰によるのもか不明。それでも、たぶん、作曲もされた ”ヤマカズさん” 自身の編曲と推察します。

この曲の、他の多くの演奏とは少し趣が違います。

  静かに、厳かに、言葉にならぬ想いはハミングにのせ、ハーモニーが、響く……

”ヤマカズさん” が、ここに託したメッセージ…… 遠いとおい夏の思い出、再び戻ることは叶わぬ思い出に、涙しているかのように、聴こえます。

  鎮魂 ……

    Bravo !!!!!!!!!!!


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「夏の思い出」
作詞:江間章子 作曲:中田喜直
合唱:日本合唱協会 指揮:山田一雄


2017-06-17

庄司紗矢香さん Paganini 難曲にブラボー!


庄司紗矢香さん、アンコールにこの難曲を! 豪快にそして繊細に!

  パガニーニ 24の奇想曲 作品1から第17番 変ホ長調 ソステヌート。

作曲者のパガニーニ自身が、演奏会でアンコールによく弾いたと言われる曲。
同じ音を二本の弦で奏でる奏法、これはヴァイオリンとビオラにのみ可能で、ピアノをはじめ他の楽器にはできない技巧。
バイオリニストにとって、優越的な技の見せ所の曲でもある由。

因みに、曲の冒頭、最初の音 "変ホ (Eb, Es)" が G 線と D 線の同音重音。
ビデオ画面で、紗矢香さんがチューニングを終えて構えるとき、向かって右上側の2本の弦に、それぞれ小指と人差し指を置き、弓をその2本の弦に置いて弾き始めるのを、見ることができます。

曲の途中にも "同音の重音" が使われているそうですが、・・・見ても聴いても、残念ながら私にはよくは判りません。
聴き分ける耳がない、ということは残念に違いないのですが、といって、あまりそういう技術的な詮索をしながら音楽を聴くことは元より好きではなく、むしろ目をつぶって聴くことの方が好みです。

4分弱の曲ですが、その 2/3 ほど進んだあたりで、カメラが、彼女の左向きの上半身アップを映し出すと、その背景に見えがくれして、目を見開き、食い入るように見入っている人物がチラッと映ります。


あまりにも驚いているように見えたので、誰かと思って、カメラアングルとの位置関係を "詮索" してみたら、オーケストラのコンサートマスター、つまり第一バイオリンの首席奏者です。
同じ楽器の専門家の耳にも、驚きの演奏と聴こえたのでしょうか。
演奏後、オーケストラ・メンバーの大喝采の中、拍手しているコンサートマスターの手が、画面左端にちらっと映ります。

さすが ”重音の紗矢香さん” 、同じ音を2本の弦で弾く箇所がいくつかあるこの曲も、まったく難曲にあらず、面目躍如!


  Brava!!!!!!!!!!!

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Niccolò Paganini “24 Caprices Op.1 No.17 Sostenuto Eb maj.”
Vn. Sayaka Shoji Cond. Yuri Temirkanov
Saint Petersburg Philharmonic Orchestra


改訂:6/17 演奏中のカット挿入 他


2017-06-16

鳴くほととぎす


皆人みなひとの 待ちし卯の花 散りぬとも
鳴くほととぎす われ忘れめや

大伴清縄おほとものきよつな:萬葉集 1482


注)散りぬとも = ぬ〔助動 完了〕+ とも〔助 既定事実を仮定の形で強調〕散ってしまっても
注)…めや = め〔助動 む 已然形〕+ や〔助 已然形を承け反語〕…しよう、いや …しない → …しない!

出典:新編日本古典文学全集 萬葉集2 1999 小学館
参照:岩波 古語辞典 補訂版 1990 岩波書店

改訂:6/16 注)の内容改正
  :6/16 注)に加筆 ” → …しない!”


2017-06-15

へリベルタ・V・ポシンゲル「わかれ」


わかれ

ふたりを「とき」がさきしより、
 晝 ひる 事 ことなくうちすぎぬ。
よろこびもなく 悲 かなしまず、
はたたれをかも 怨 うらむべき。

されど 夕闇 ゆうやみおちくれて、
 星 ほし 光 ひかりのみゆるとき、
 病 やまい 床 とこのちごやう、
こころかすかにうめきいず。

    へリベルタ・フォン・ポシンゲル ---- 『詩集ししふ


Heriberte von Poschinger 1849-? “Geschieden”
上田 敏 訳 1905「海潮音」本郷書院



注)はた = 一方では また
注)たれをかも怨むべき = いったい誰を怨むというのか→ 恨む人などいない の意
    たれ = 誰〔疑問詞〕
    かも =〔複合係助詞〕か+も
        か =〔疑問詞を承ける係助詞=判断不能な疑問であることを示す〕
        も =〔疑問詞を承ける係助詞=承ける語を不確実なものとする〕
    べき =〔助動詞 べし 連体形〕必要/当然の理を示す→ 極めて強い意志/確信/推量を表す
注)Heriberte von Poschinger = 1849年生まれのドイツ女流詩人

出典:日本近代文学大系 52 明治大正譯詩集 角川書店
参照:岩波 古語辞典 補訂版 1990 岩波書店


2017-06-13

Alto Flute “Kakariko Village”


ここで演奏される楽器は、アルト・フルート。
普通のフルート(C菅)より4度低いG菅で、キー配列はC菅と同じ。

  演奏は Gamer of the Winds 氏。
  ピアノ伴奏は、彼の友人と思われる KahiReborn 氏。

Gamer of the Winds さんは、ハイレベルのアマチュア フルート(C菅) 奏者のようで、同僚の女性がアルト・フルートを貸したくれたので、この曲を吹いてみたとのこと。

  曲は、The Legend of Zelda - Ocarina of Time より Kakariko Village 。

…… そう言われても、浦島太郎には何のことかさっぱり判らず、ネットで調べた。

ゼルダの伝説シリーズ(The Legend of Zelda series)は任天堂が開発・発売しているコンプータ・ゲーム・シリーズ(Wikipediaによる)。

なるほど…… そのシリーズの ”Ocarina of Time” の巻から “Kakariko Village” のテーマ、ということらしい(違っていたら教えてください)。

アルト・フルートのいい音を聞きたくて、あれこれとネットで探していて、この演奏にめぐり合いました。
他に見つけたどんな演奏よりも、生き生きと伸びやかに吹き上げて、素晴らしい。
吹奏楽器ですから、歌声に似て、胸の思いが吹く息に出て、音になるように思います。

ゲーム・オリジナルのサウンドは、ハモニカの音を模したシンセサイザーによると思われる演奏で、伴奏にギター、オカリナ、シロフォンの音も入ります。
これは、抑揚もしっかりつけて楽器をうまく模擬していますが、しかし、楽譜という設計図のとおりに、正確無比、機械的に音が続くところに、どうしても白々しさを感じてしまいます。

その、ちょっと機械的でオモチャめいた軽い感じのするオリジナルを聴いて、それを、暖かい音色の楽器を使ってこれほどまで表情豊かな音楽に転化できる…… それは、素晴らしい創造力によるものだと思います。

管楽器はいずれも息継ぎ、ブレス、が必要ですが、その中でもフルートは、より多くの息を吹き込む必要があると言われていて、ブレスの頻度も比較的多いと思います。
休止符が少ない曲では、たとえスラーの途中であっても、息を継がざるを得なくなることもあります。

菅体の大きいアルト・フルートでは、ブレスが更に大変なこと、想像に難くなく、そう思えばこそ、感心することしきり、繰り返し聞きたくなります。

この演奏を聴いて、軽いブレスの音や思いがけない位置でのブレス、それらも表現の一部を担っていると気がついた……

それで、思い出した。グレン・グールドというかつての大ピアミスト……
完璧な演奏にこだわり、演奏会を否定して引退、スタジオで繰り返し録音した自分の演奏の録音テープから、良いところだけを選んでを切り継ないで一曲の演奏として発表した、と言われた人……
完全に誤っている、と改めて思う。


    Bravo !!!!!!!!!!!

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“Kakariko Village”
作曲:近藤浩治
Alto Flute: Gamer of the Winds
Piano: KahiReborn

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音楽を愛する君へ

良い演奏とは、断じて、欠点のない演奏のことではないぞ!

それは、君の、喜びが、苦悩が、呻きが、悔恨が、悲しみが、寂しさが、
優しさが、愛が、願いが、すべての熱き思いが、たとえひとかけらでも、
そこに表れる演奏のことだ。

なぜそう言えるか? 答えは、いとも簡単さ。
だが、その答えを出せるのは私じゃない、君だ。

君は、なぜ、奏でるのかまた歌うのか…… 己の心の底に問うてみたまえ。


ボードレール擬

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改訂:6/13 末梢表現訂正



2017-06-11

中原中也「頌 歌」


頌 歌


出で發たん!夏の夜は
霧と野と星とに向つて。
出で發たん、夏の夜は
一人して、身も世も輕く!
この自由、おゝ!この自由!
心なき世のいさかひと
多忙なる思想を放ち、
身に沁みるみ空の中に
悲しみと喜びをもて、
つつましく、かつはゆたけく、
歌はなん古きしらべを
霧と野と星とにれて、
歌はなん、夏の夜は
一人して、古きおもひを!

       (一九二九・七・一三)


中原中也 1929 未刊詩篇


出典:中原中也全詩集 P.464 1972 角川書店

注)かつは = 一方では
注)ゆたけく = 豊けく ゆったりと 豊かに
注)…なん = …なむ〔強い意志〕必ず…しよう