2017-03-28

雲とたなびく


昨日きのふこそ 君はありしか 思はぬに
浜松のうへに 雲にたなびく

大伴三中おほとものみなか:万葉集


出典:日本古典文学全集 萬葉集1 1999 小学館
注)…こそ = 已然形 逆接条件を表す
注)…か = 念を押す気持ちを表す …ではないか
注)思はぬに = 思も及ばず
注)雲に… = 雲となって…


2017-03-26

村治佳織さん「アランフェス協奏曲」


村治佳織さんのギターで、ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」の第二楽章。
コンサートホールの舞台での演奏ですが、オーケストラのメンバーは皆平服で、客のいないレコーディング・セッションでの収録のように見えます。

この演奏が、大変気に入っています。

冒頭で、ギターが奏でる和音に合わせて、テーマを演奏するイングリッシュ・ホルンが大変に素晴らしく、聞き惚れます。
この第二楽章は、ギターとイングリッシュ・ホルンの演奏で決まり……これが、表面的だったり、軽い演奏だったりすると、残念なことになってしまいます。
演奏しているオーケストラも指揮者も、名前がわからないのですが、いずれも素晴らしいと思います。

村治さんのギター、後半のカデンツァで、長い休止と、それに続く pp から ff へ演奏が、思わず息を潜めて聴き入る緊張感を伴って、快く響きます。

このビデオクリップは、誠に残念なことに、最後の数十秒の演奏がカットされて、しり切れトンボになってしまっています。
しかし、そうであっても、この曲はこの演奏で聴きたいと思う素晴らしさがあります。

Bravo!!!

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”Concierto de Aranjuez : Adagio”
「アランフェス協奏曲 第二楽章」
作曲: Joaquín Rodrigo
AG: 村治 香織 Orchestra & Conductor: 不詳


2017-03-25

C.P. ボードレール 「高 翔」

こう しょう

沼超えて、谷超えて、
山や森、雲や海、乗り越えて、
太陽彼岸かなた虚空こくう際涯はてし
星々のきらめく天のはて越えて、

心よ、なんじ、身軽にも、けめぐるよな、
陶然とうぜんと沖に楽しむ水泳の名手のごとく、
えも言い難き男々しさの快楽にひたりつつ、
なんじ嘻々ききとして、宇宙の深きめぐるよ。

べ 、塵俗じんぞく穢土えど遠く、
翔び行きて、上層の気に身を洗え、
さては飲め、至醇しじゅんなる天の酒とも、
超冥界ちょうめいかい充満みちみてるあかほのおを。

鬱陶うっとうしき人生にのしかかる
倦怠けんたいも苦悩もよそに、
羽搏はばたたけく、光明と静謐せいひつのかの天空へ、
飛び立ち得る者は幸いなり!

その詩想おもい雲雀ひばりのごとく、
あかつきのみ空かけ、自在にも翔びかけり、
ーーー塵俗の世を低く見て、花の声、
声なきものの言の葉を解する者は幸いなり!


Charles-Pierre Baudelaire 1857 “Les Fleurs du Mal”
堀口大學 訳 1953 「悪の華」 新潮文庫


注)陶然 = 酔ったようにうっとりするさま
注)塵俗 = 俗界
注)穢土 = 汚れたこの世
注)至醇 = この上なく純粋なこと
注)超冥界 = 超 死後の世界
注)静謐 = 静かで穏や


2017-03-21

うべも恋ひけり


皆人みなひとの ふるみ吉野 今日けふ見れば
うべも恋ひけり 山川やまかは きよ

作者不詳なり:万葉集


出典:日本古典文学全集 萬葉集2 1999 小学館
注)うべも恋ひけり = 恋うのももっともだ


2017-03-19

中原中也「時こそ今は……」


時こそ今は……

時こそ今は花は香炉に打薫じ
ボードレール


時こそ今は花は香爐こうろ打薫うちくんじ、
そこはかとないけはひです。
しほだる花や水の音や、
家路をいそぐ人々や。

いかに泰子、いまこそは
しずかに一緒に、をりませう。
遠くの空を、飛ぶ鳥も
いたいけな情け、みちてます。

いかに泰子、いまこそは
暮るるまがき群青ぐんじょう
空もしずかに流るころ。

いかに泰子、いまこそは
おまえの髪毛かみげなよぶころ
花は香爐に打薫じ、

中原中也 1934 「山羊の歌」


出典:中原中也全詩集 P.117 1972 角川書店

注)打薫じ = うち薫じ すっかり良い香りを放っている
注)しほだる= 潮垂る 元気がない
注)籬 = 竹や柴などで目を粗く編んだ垣根
注)群青 = 藍青色 鮮やかな青